昭和30年12月07日 衆議院 外務委員会

[066]
自由民主党 山本利壽
こういう外交の問題については、すべての問題をわれわれは理論的にと実際的にと両方面から常に慎重に考えなければならぬと考える。この日韓問題に対しましても、実際的にはわれわれはあくまで平和裏に解決しなければなりません。何人も砲火を交えて実力でこの際解決すべきであると考えておる人は非常に少いであろうと思うから、あくまでわれわれは平和裏にこの問題は処理しなければなりませんけれども、理論的に先ほど並木君はこの問題は憲法違反にならないのではないかということを質問されたのであるが、こういう問題に対しては、とかく相手方の感情を害してはいけないと思って、穏やかにお答えになるという当局の態度というものは一応了承いたしましたけれども理論的にはあくまではっきりとさせておかなければならぬと思うのでございます。

理論的にこれは確かに憲法違反ではない、実際の問題がいかに進展しても、場合によっては実力行使のようなことが起っても、これはわが国の方からいえば自衛権の発動であって、決して憲法違反ではないという理論的な立場をはっきりとしておかなければ、今後この問題を平和裏に解決する上におきましても非常な障害になると思うのであります。いたずらにわが方の弱腰を相手に見すかされることになると思う。

日米安保条約の発動にいたしましても、韓国側においては李承晩ラインを守ろうとしておる立場をとっておるし、わが国としては国外における日本人の保護ということであるから、さような紛争が起るとは思われないし、今そういう点について考えるべきではないといったふうなお言葉があったと思いますけれども、やはり竹島の問題というものはこの李承晩ラインにひっかかっておるからである。

竹島の問題についてはこれがいかなる観点から考えても、すなわち歴史的に見てもあるいは地域的に見ても、これははっきりとわが国の領土であるということをわが当局はたびたび発表しておったはずである。ことに数年前からこの委員会におきましても、竹島というものは、わが国の領土に違いないということをしばしば論議され、当局もその立場に立って今までやっておられたのである。だからこそこれを国際司法裁判所に訴えようという問題も起ったのであって、これがわが国の領土でないというならば、そういう手数もいらないわけであります。

ところが竹島がわが国の領土であるということをわれわれが主張する限りにおいては、それを現に韓国側は侵犯しておるのである。わが国の領土が事実上侵略されておるのである。だからこのことを国際司法裁判所に提訴することも当然であり、あるいはアメリカ側に対してこれを何とか処置してもらいたい、安保条約に基いてこの問題について何とか処分してもらいたいということを、はっきりとわが方から要求するということは当然のことであると思う。わが国の自衛隊の艦船が押しかけて行って、実力で韓国と砲火を交えて取り返せというなら、そういうことについては慎重な立場をとらねばならぬと今の段階ではまだ私は思いますけれども、国際的にいって、理論上竹島はわが国の領土であるということをわれわれが主張する限りにおいては、韓国がこれを侵略しておるのだ、この処置をどうするかというはっきりした立場をとって、アメリカその他へ向って要請する必要があると私は考えるのでありますけれども、この点について条約局長及びアジア局長あるいは政務次官はどういう工合にお考えになりますか。まず御答弁をいただきたい。

[067]
政府委員(外務事務官(条約局長)) 下田武三
まことにごもっともに拝聴いたしました。私どもはたとい仮定の問題であるにいたしましても、あまりに率直なお答えを申し上げることについて、対外的反響ということに常に気をとられておる点は確かにございます。

そこで先ほど並木委員の御質問にもお答えいたしたのでありますが、並木委員の提起された問題は、現実の事態から一つ先を想像しておられるわけであります。これは外務省の問題ではございませんが、防衛庁としても、今漁民の保護の問題である、従ってこれは直ちに防衛庁の問題でなくて、海上保安庁の問題だ、あるいは水産庁の巡視船の問題である。ところがその巡視船なり海上保安庁の船が保護に行って撃たれまして、そこでパチパチが始まって、とても海上保安庁等で処理し切れない、そういう場合になれば自衛隊法82条という条項がございまして、防衛庁といえども、侵略の場合でなくて、海上の人命、財産の安全を保護するために出動する場合もあるわけでございますから、その場合には防衛庁の警備艦が出て、向うも出てきてそこでまた日本海海戦が始まる、そうなって初めて並木さんの提起された問題が起るわけです。

そこで私のお答え申しましたのは、そういう先の先まで考えて、憲法9条に基いて許されておるところの自衛権に基く武力行動ないしは安保条約の発動というような問題ではただいまございませんということを申し上げるに急な余り、先ほどのような御答弁を申し上げたのであります。しかしながらこれはもう仰せの通り憲法なら憲法で許容されたることは、もしその場合が発生いたしましたならばそれを行い得ることは、それは当然適法行為でございます。安保条約の規定した事態がかりに発生いたしましたならば、安保条約の発動を求め得ることは当然のことでございます。それが憲法なり国際法によって国家に自衛権というものが認められ、また安保条約においてその発動の場合が予想されているゆえんでございます。

ただしかし先の先まで想像して、そうして今直ちにそういう手段がとられるかのごとき印象をこの際内外に与えますことは、これは私は決して日本の国家のために利益をもたらすゆえんでないと思いますので、まことに奥歯にものの詰まりましたようなものの言い方を申し上げましてただいまの御注意を受けたのでありますが、私どもの意図はそういうところにあるのでございます。御了承願いたいと思います。

[068]
自由民主党 山本利壽
ただいまの御答弁によりますと、竹島という言葉はお使いになりませんでしたけれども、竹島がはっきりとわが国の領土である、しかも現段階においては韓国側は韓国側の説明をしておるでありましょうけれども、わが国としてはわが国の領土が他国によって侵略されておるということを認められますかどうか、その点をもう一度……。

[069]
政府委員(外務事務官(条約局長)) 下田武三
竹島の問題につきましては、国際法上の観点から見ますとこういうことでございます。つまり日韓両国とも争っていない地域、たとえば長崎県でありますとか、福岡県に韓国側が入ってきて、そこに警備兵を置くとかいう問題ではないわけなのです。やはり韓国は竹島を自己の領土なりと主張しておる。われわれから見ましたならばこれはとんでもない主張でございますが、向うも自己の領土なりという主張はいたしておる。その韓国側の主張が誤まりであるからこそ国際法廷で黒白を明らかにしようというのが私どもの提案でありますが、その提案はけられたわけであります。

従いまして長崎県なり、福岡県なりに韓国が警備兵を入れてきたという問題と、たとい誤まりであるにしろ、自国領土なりと主張しておる領土に、つまり竹島に韓国警備兵を入れたという問題とは、国際法上から見ますと非常に大きな違いがあるわけでございます。

ただわが方といたしましては、韓国の主張の誤まりであることはこれは明白なのでありまして、この明白なわが方の主張を国際法廷ではっきり正しいものとしての烙印を押してもらいたかったのでありますが、これを韓国側の自信のない態度から出るのだと思いますが、国際法廷におけるさばきを拒否したということによって、ますます韓国側の自信のないと申しますか、誤まりであることが証明されたように私どもは感じております。

しかしこの問題も、先ほど御指摘になりましたように李承晩ラインの問題と関係がございます。従いましてまことにまだるっこいことではございますが、これは日韓間の全般的の国交調整の交渉の問題が5つありましたが、全般的の国交調整の問題に早く持って参りまして、その問題の一環として解決する以外ただいま方法はない、そういうように考えております。

[070]
自由民主党 山本利壽
ただいまの御答弁で、竹島の場合は長崎県の一部が侵犯された場合とは趣きが違うということを言われましたけれども、これは島根県の一部であります。日韓合併以前からこれは島根県の管轄でありまして、そしてあの方面の日本海沿岸の漁民たちはあそこへ行って漁をしていたのである。

だから向うはいかに言おうとも、理論的にわが方としては──第三者あるいは韓国側はどう解釈してどういう理由を言おうとも、わが国の国民特にわが当局は、あくまで島根県の領土が韓国によって侵犯されておるということを、はっきりと主張し続けていかなければ、将来これが国際司法裁判所にかけられても、この解決というものは、わが国にとっては非常に不利になると考える。

今外務当局のこういう重大な場所で発言する一言一句が、直ちに相手方の神経にさわって、ますます紛糾せしめることをおそれられるという立場は了解いたしますけれども、あくまでこれはわが国民のための国会であるし、われわれはわが国のために尽さねばならぬのでありますから、今の点は理論的にはっきりと割り切ってものを言っておかなければ、非常に不利であると私は考える。あくまでこれは歯にきぬ着せたような言い方では困ると考える。

もう一度聞きますけれども、竹島の場合は他の場合と違って第三者から見、あるいは国際的に考えてみても、これは侵犯ではないとおっしゃるのですか。侵犯であるといわなければこの問題の将来の解決には非常に障害を来たすと思うから、私はあくまでこれはわが国の領土である、しかも日韓合併以前に島根県の管轄下にあったところのこの島というものは、あくまでわが国の領土であると私は考えるものであります。この点についてもう一度はっきりここで言っておいていただきたいと思います。

[071]
政府委員(外務事務官(条約局長)) 下田武三
竹島は、私どもの見解によりますと、これは明白に伝統的の日本の領土でございます。

従いまして現在竹島に韓国の警備兵を置いておるのは明白な日本領土の侵犯であります。