昭和29年12月06日 参議院 本会議

[018]
日本民主党(自由民主党) 團伊能
私は、最近問題になっております日本領竹島の問題につきまして緊急質問をいたします。

竹島は、従来日本領であることは歴史に徴しまして疑いないばかりでなく、更に最近、平和会議の条項、第2条におきましても、日本と韓国が分離した際に、韓国に所属する島嶼は明瞭に記載されておりまして、済州島、巨文島、鬱陵島の3島が韓国に所属し、他の諸島は日本に属することになっているのであります。日本政府から韓国に抗議をいたした抗議文に対する韓国側の回答を読みますと、あたかもこれが鬱陵島の付属島嶼のごとく受取れる感がいたしますが、韓国の歴史においても、すでにこの島を独島、一つの島、独りの島と書きます。独島と称しているばかりでなく、56カイリを隔てるこの島が、鬱陵島の付属島嶼でないことは極めて明瞭であります。

今日、政府及び国民の一部の竹島に対する誤解、これが渺たる日本海の一小島であり、この問題について種々国際紛争を起すことは、国家として非常に不利であるという考えもありますが、最近の遠洋漁業その他の科学的な漁獲方法により、この島は急に重大性を持っていることは、日本よりも韓国側のほうが、よくこれを了解しているようであります。又、非常に災害の多い日本における気象通報のためにこれを用い、又、世界に二つよりない非常な貴重な海獣「あしか」の集合地でありまして、日本は曾つて「おっとせい」条約に入っておりましたが、この「おっとせい」の保護と同様に海獣保護の文化的責任を持っているものであります。

然るにこの竹島は、昨年の春以来韓国側が非常な巧妙な手を打ちまして、或いはここに軍隊を送り、又最近は灯台を作って、これを米国の国際航路局に登録いたし、又予算を通して、ここに築港する計画をいたしております。殊に最近、韓国では、郵便切手に竹島の図を載せまして、これを頒布し、且つ世界的に竹島の領有を宣伝して、外交における事実をここに作ろうとしていることは、皆様すでに御承知の通りであります。これに対し、日本政府は、ただ文書的な抗議を送るにとどまりまして、今日まで何ら積極的なこの解決をしなかったことにつきましては、私は非常な遺憾の意を表するものであります。(拍手)

私はこれにつきまして、先ず副総理にお伺いいたしたいと思いますが、日本政府は、とかくこの問題を、或いは国民の注意を避けるような方法において解決しようといたし、ここに参りました韓国人をいわゆる密入国者としてこれを取扱い、日本の巡視船を送ってこれを収容し、長崎県の南風崎からこれを韓国に送還する、いわゆる密入国者の取扱いをいたしております。

併しながら今日、すでに昨年以来数回に亘って日本の巡視船が参りましたときに、これが銃撃を受け、或いは砲弾を受けまして、巡視船のへくら、おき等の船は、いずれも優秀な鉄船でありますが、200発の銃弾を受けて、それは鉄板を貫通しておるような損害を受けております。このために竹島に近寄れないで引返しておるのでありまして、今日、これを密入国者として取扱い、警察処分で取扱うことは、もはやその域を遙かに脱しているものであります。

ここで副総理にお伺いしたいのは、こういう工合に日本の領土が明瞭なる直接侵略を受けながら、政府はこれをどういう工合に取扱おうとしておいでになりますか。防衛庁法によるいわゆる総理大臣の緊急状態に対する防衛出動によって、この問題を解決することが私は至当と考えます。終戦以来極めて虚脱した日本人は、自国の領土においてさえ非常に無関心であり、あらゆる事件が起りましても、いわゆる没法子としてこれを見過ごして行くという習慣がありますが、すでに今日に至り、竹島の領土侵略をただ成り行きに任せて見過ごすという状態であることは極めて私も遺憾とするものでありますが、ここに副総理から、この問題のはっきりした処理方法を伺いたいと思います。

次に、大村長官にお伺いしたいと思いますが、若しこの防衛出動を命令して、これに防衛庁の力を以てここから外国兵を退去せしめるというような事態に至りましたとき、果して今日の防衛庁の力が、どれだけの可能性を持っているかということであります。私が察しますのに、米国より貸与を受けましたフリゲート・パトロールのような船は、攻撃的武器を持っていないばかりでなく、非常に吃水が浅く、日本海の風浪にさえ耐えかねるものであると考えますが、こういう船を持って行ってもこの問題は解決しないと考えます。殊に、若しもこれが抵抗に会った場合には、韓国においてはすでに100機以上の新鋭なるジェット戦闘機も持っておりまして、これらの戦闘機の迎撃を受けましたときは、到底これに対抗し得ないものであります。この問題を私は武力的処理をいたすということではありませんが、併し実際上、日本の防衛を出動いたした場合、如何なる日本の力というものであるか、それを明瞭に伺いたいと考えるのであります。

更に、岡崎外務大臣にお伺いしたいのでありますが、軍艦旗を挙げ正規軍を乗せていない日本の警察船が、若しも外国の艦隊と遭遇いたし、不幸にしてその間に紛争を起し海戦をいたすような場合、果して日本の憲法に照し、日本の船はどういう国際的な地位にあるか。これに、各国の軍艦として認められたものが許されているだけの自由な行動ができますかどうか。この点の日本の艦艇の国際的ステータスについて伺いたいと思います。併しながら私は、ここにこういう質問をいたしまして、これに武力的解決をしろと主張するのではございません。外務省が今日まで非常な平和的な処理をしようと思ってこの問題の解決に当られたということは、私も非常に、了解し、又共鳴するところであります。併し今日までのそれでは平和的処理がどういう方法をとられて来たかということにつきまして、ここに岡崎外務大臣からお伺いいたしたいと思います。

この夏以来、この竹島問題の解決に当りまして、国際司法裁判に訴え、その裁決によってこれを解決しようとしたことは、皆様御承知の通りであります。併し今日、濠州との間のいわゆるアラフラ海の漁業問題につきまして、両国合意でこの問題を解決しようとしておりますが、併しこの国際司法裁判は、合意なくしてこれを実行し得ないことは明らかであります。それにもかかわらず、韓国にこの国際司法裁判に訴えることを提案いたし、忽ち韓国の反対によりましてこの合意が拒否された。これは成立しなくなったのであります。この合意の拒否を受けて以来、外務省は更に国際司法裁判の問題について、どういう工合な方法を進めておいでになりますか、承わりたいと思います。

更に又、今日印紙に竹島を印刷して公布していることに関し、外務省はこれに対し、新聞紙によりますると、この印紙をつけた郵便物は日本の国内に入れない、これを拒否し、返すというような文句を以て韓国に抗議していられます。が併し、いろいろ万国郵便条約等を引っくり返して見ましても、万国郵便条約のどの条項が、竹島の印紙を貼った郵便物を送り返す基礎となるか、ここに承わりたいと思います。韓国から発せられる郵便物は、単に韓国人の郵便物ばかりでなく、その中には多数の外国人の文書も入っており、又その中には、日本を通過して外国に参る郵便物もあります。これらを単に竹島の印紙をつけているが故に拒否して行くということが、果して万国郵便条約によって許されるかどうかが、私は非常な問題であると思います。試みにこの郵便条約を見ますと、59条の禁止条項というものがありますが、併しこれはいろいろな郵便物、殊に小包等の中において爆発物その他を取扱ったものの禁止でありまして、これが郵便切手に関して、こういう条項が適用されるものとは考え得ないのであります。

又更に政府におかれましては、日本に入って来る物品の関税の問題といたして、いわゆる関税定率法によってこれを禁止しようとしております。関税定率法の21条には、日本に入って来る品物で日本の公安を害し又は風俗を害するような文書、図画、或いは彫刻その他のものはこれを禁止することが書いてありますが、併しこれらは到着した品物に関する規定でありまして、郵便切手が公安を害するから、これを禁止するということには当らないと思います。むしろこれは、この郵便切手は、いずれも登録されておるに違いありません、つまり世界的登録をしてあるその根柢に遡って、その登録の取消を要求することが私適当な方法ではないかと考えます。この点に関し、この郵便切手の処理を私は、どういう工合に政府は処理しようとしておいでになりますか、御説明を承わりたいと思います。

なお日本は、今日国連の理想に共鳴し、又、国連に参加はいたしておりませんけれども、その義務をも一部果そうということを、平和条約におきまして約束もしているのであります。そこでこの国際連合は、単に加盟国の利益をのみ擁護するものではなく、広く世界の平和を保持しようという大理想に立っておりますものでありますから、国際連合に対してこの問題を提起することは、必ずしも当らないものとは考えません。勿論旧敵国として多少の差別の待遇は受けるかも知れませんが、私どもは、すでにここに国連の理想に参加し、平和的日本として今日に至りましたのでありまして、これらに何らの差別を受ける理由も私はないと思います。そこで国連憲章の第35条の第2項におきましては、国連の加盟国でないものも、若しこれを平和的に解決するということを承認するならば、国際連合の安保理事会にこれを訴え、又総会において注意を喚起することができるという条項があります。なぜ外務省は、速かにこの問題を国際連合に提起してそうして解決に当らないか。その点伺いたいと思います。

今日の印紙問題のごときは、曽つて外国間におきましては、戦争をも誘発したような重大問題であります。こういう非常に不幸な事件が起っておりますならば、必ずや国際連合も、これを取上げまして、これに一つの解決の途を見出すだろうと考えます。

併しながら更に手近なことは、日米安全保障条約によりますと、その巻頭に、日本が平和を回復し独立をいたしたるとき、無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないから、この無防備の日本を米国軍が駐留して守るということが書いてあります。然らばこの日本の国土の一部が直接侵略を受けている今日、ここに駐留している米国軍は、果してこれにつきまして、どういう立場をとるのでありますか。若しも、私、信ずるところによれば、日本政府においてこれを要求すれば、当然この問題を解決することが、駐留している米国軍の責任であると考えます。この点、どういうわけで日本政府は、米国駐留軍の協力を得てこの問題を解決されないか。この点について明瞭なる御返答を頂きたいと思います。

時間がありませんから、これを以て私の質問は終りますけれども、今日、日韓間の問題は非常に複雑であります。竹島問題も、この総合的解決の一環として考えるというお説がありますけれども、これが李承晩ラインの問題その他、漁区の問題、請求権の問題、日韓貿易の問題等とは違って、これは日本の国土の一部が占領されおるという不幸なる事実でありますから、これは日韓会談のほかに立ち、まずこの問題を解決してこそ、日韓会談に対する曙光は得るものだと思います。これらの点につきまして、政府より御答弁をお願いいたします。

私の緊急質問は、これを以て終ります。(拍手)

[019]
北海道開発庁長官・内閣総理大臣臨時代理 緒方竹虎
お答えをいたします。

竹島問題は、一昨年の1月、李承晩大統領が李ラインを宣言したときから起った問題でありまして、その後の経過につきましては、時間の関係上ここで詳しくは申上げませんけれども、これを要しまするに、日本のほうではどこまでも平和的に解決をして参りたいと考えておるのに対しまして、韓国側におきましては実力を以て既成事実を作って行こうと、そういう誠に言語道断な態度に出ておることは今御指摘になった通りであります。

併しながら、日本と韓国との関係は、これは東亜の大局から見ましてなかなか重大な問題でありまするし、何か両国の関係の将来について誤解もあるのではないかと考える点もありまするので、今すぐに防衛出動等のことをすることは避けまして、なお一層忍耐力を持って平和的に処理する途を考えて参りたい、さように考えております。(拍手)

[020]
防衛庁長官 木村篤太郎
竹島問題について、仮に防衛出動をした場合に、韓国の実勢に対して対処し得るかどうかという御質問でありますが、現在フリゲート18隻、これらについては相当訓練の度が上っております。

併しながら、韓国におきましては、現在相当数のロケット砲弾を積んだ爆撃機を持っておるのであります。然るに日本におきましては何んら爆撃機及び戦闘機を持っておりません。従いまして、韓国においてこれらの飛行機が出動した場合に、これに日本が対処し得るという手段は持っていないのでありまして、従いまして、防衛出動した場合において十分に日本が対処し得るかどうかということについては、遺憾ながら私は現在のところ確信はないと言うよりほかないのであります。(拍手、「何のために自衛をするのか」と呼ぶ者あり)

[021]
外務大臣 岡崎勝男
御質問について順次お答えいたします。

第1は、軍艦の性質の問題でありますが、勿論我々は憲法上自衛権を放棄しておるものでありませんからして、相手国が侵略をして来た場合、自衛権を行使することは勿論できるのでありまして、従って相手側の軍艦が攻撃した場合でも、政治的問題は別として、法理上から言いますれば、我が艦船が自衛権を行使することはでき得るのであります。で、その場合国際法上の軍艦としては一定の要件を必要といたしております。で、我が国は憲法上交戦権を持っておりませんので、我が艦船はおのずから軍艦とは性質を異にするわけであります。従ってこの相手方の艦船と遭遇した場合に、我が警備船は、一般的な交戦権は持たないことになりまするけれども、自衛権の行使に必要な限りにおきましては、国際法上軍艦に準ずる地位を認められているものと考えております。

第2には、国際司法裁判所に提起した問題でありまするが、元来竹島は、国際法上の基本原則である領土権に関連する問題でありますので、これを国際司法裁判所に付託して、最も公正にして権威ある国際法廷の裁判を仰ぐことが最上であると思いまして、これを韓国側に提起したわけであります。で、先ほども副総理が申しましたように、本竹島問題につきましては、我がほうとしては平和的解決を図ると、こういう方針でできるだけ穏便に、又合理的な解決をと考えておりましたが、韓国側がこの国際法廷の裁決を仰ぐことを忌避したのでありまして、甚だこれは遺憾であると同時に、韓国側としては恐らく国際法廷の合理的な審判には堪え得ないという考えがあってのことかと思うのであります。で、更にこれにつきましては、国際連合等いろいろの方法を考慮しているのでありまして、決してこのままで、そのまま放っておくというわけではありません。

で、ただ我が国としましては、韓国側との関係は将来も長く続くものでありますので、でき得るならば直接の交渉なり、又はこの郵便切手の問題であるならば、万国郵便条約の関連において、問題は平和的に解決したいという希望をまだ捨てておりませんので、この方面に努力を傾注しているわけでございます。

それから郵便切手の問題でございますが、これはいわば国際条約の盲点を突いて、非常に巧みに宣伝を試みたということとも言えるのでありますが、勿論これが不合理なことは申すまでもないのであります。で、先ほどもお話のように、政府としましては韓国側に対して厳重なる抗議をいたしますと同時に、万国郵便連合を通じまして、かかる不法な行為を取止めるように韓国側の反省を促したいと考えているのであります。本邦内における切手の取扱い方につきましては、お話のように国際上の先例も1、2あるのでありまして、従いまして、この切手の拒否ということを政府は今直ちに決定したわけではないのでありまして、只今、万国郵便条約とか、国内法規の見地から、関係各省で慎重にこれを検討させつつあるのであります。

なお最後に、安全保障条約の発動を見たらどうかというお話でございますが、これは厳密な法律の解釈の問題は別といたしまして、政府といたしましては事態の現実的な解決を図るように只今努力最中でありまして、目下のところ米軍の援助を要請しておりませんし、成るべくこういうことはしないで解決をいたしたい、こう考えておりますような次第でございます。(拍手)