昭和30年07月25日 衆議院 内閣委員会公聴会

[047]
自由党(自由民主党) 大坪保雄
それでお尋ねいたしますが、あなたも御承知だと思いますけれども、私はかって島根県に在任しておったことがございます。あそこの県有地として竹島という島があるのです。現在もあるはずです。これが今韓国軍に占領されておる。直接日本の領土が侵されておるのです。これに対する手は何ら打っていない。私どもは国土の侵略を現に受けておるのです。

それからもう一つ今日李承晩ラインというものがございます。御承知の通りでございます。これは国際法の原則慣例というものを明らかに無視しておると思う。韓国の沿岸から近いところでも30数マイル、遠いところでは170マイル、190マイルの公海です。これは明らかな公海です。今日国際法を学んだ者の常識として当然公海である。その公海に勝手に一線を画して、そこに入って行く日本の主として漁民、これが権利を侵害されておる、生命が侵されておる、人身が抑留されておる。漁夫や漁船がとられておるのです。私どもはこれは海賊行為だと思う。

しかしそういう侵略が現実に行われております。それに対して私どもはやはり手をこまねいてこれを見守っておるべきでございましょうか。こういう場合に対して一体どうすれば自衛権の効果というものが上るのでございましょうか、その点を一つお伺いいたしたい。

[048]
公述人(成践大学教授) 佐藤功
そういういろいろの例があるということは私も存じております。しかし、たとえば今御指摘の竹島のようなことが、防衛庁法や自衛隊法にいう侵略されたときというのに当るのでございましょうかどうか。つまり防衛庁法あるいはこの国防会議法なんかで防衛出動ということをいっている場合は、ああいうところよりも、もっといわば本格的な侵略と申しますか、そういうものを予想しているのであると考えます。

[049]
自由党(自由民主党) 大坪保雄
それではお伺いいたします。私の非常に心配でならぬことは――しかしながら私は今の状態ですぐ兵力を持っていってどうせよということは考えておりません。申しもしません。しかし韓国の大統領の李承晩氏という人は、竹島は韓国の領土であると言ってやっているのです。さらにこれは新聞紙の伝うるところでありますけれども、対馬もまた韓国の領土なりと言っておるのです。

現に韓国の領土なりといって竹島を占領しておる。国際法の原則や慣例を無視して、170マイルもの公海上で日本の漁民を抑留し、あるいは銃殺し、あるいは漁夫、船等を略奪しておる。こういう事実がある。

そういう事実が積み重ねられておって、あの人は対馬を韓国のものだと言っている。

もしそれ対馬に韓国の竹島のごとき侵略があったという場合にはどうでございましょうか。これもやはり守らないで私どもは手をこまねいておらなければならぬのでございましょうか。自衛力が持てるか持てないか、自衛力というものはどういうものであるかということについても、あなたの御意見に従って私はお尋ねしているのでございます。

[050]
公述人(成践大学教授) 佐藤功
そういう具体的な問題として御質問を受けますと、私も正直に申しまして困るのでございますが、ただ初めに申しましたように、私は御心配になるような、そういう事態が出てきたということは、憲法が予想していなかったことであると思うのでございます。ですから、それが今、やれ竹島だ、何だというところでとどまっておればよろしゅうございますが、しかしこの法案を含めまして防衛三法が考えておりますような、侵略とか防衛出動とかいうのは、そういうものよりももっと大きなものを考えているのである。そうだとすれば、もしもそれを作ろうというならば、今の憲法のもとではできないというふうに考えるわけです。

[051]
自由党(自由民主党) 大坪保雄
私は佐藤先生は学者として非常に尊敬いたしておりますが、そういう原則論をはずれた程度論をもってこられては、これは政治の問題が外交上の問題になるかもしれませんけれども、私どもは本日の公述人としての佐藤先生の御意見とはなかなか了解いたしかねるのです。

それではどの程度ならば侵略になり、自衛をしなければならぬのであるか。どの程度ならば侵略にならぬし、自衛をしなくてもいいかということは、その場の状況とかいうようなことできまるということでは、私どもはまことに迷ってしまう、困るのであります。そのところはやはり学者として私どもは伺っておりますから、はっきりお教えをいただきたいと存じます。

[052]
公述人(成践大学教授) 佐藤功
どういう程度にやれば侵略になるかということは、理論的には国際法の問題であるわけでございます。その場合に、あるいは竹島というものが国際法のとらえ方からいいますと、侵略であるということは言えると思います。

ただ日本が、その侵略があるからといって軍隊を設ける、あるいは防衛出動をするということとは、これは別の問題ではないのかということなのです。

[053]
自由党(自由民主党) 大坪保雄
そこがわからぬのです。それは学者の学問上の議論じゃないのです。それは現実の政治上の問題として、竹島に日本は防衛出動をしない方がいいと思うから、していないだけの話である。ただ、あなたは今の憲法上自衛力は持てないのだと仰せられたのですから、そこのところが私どもは心配なんです。

竹島の程度や李承晩ラインの程度はがまんするといたしますか。しかしながらいろいろの過失を積み重ねてきた韓国が、もしあやまってもう一ぺん対馬を占領に来た場合にどうするかということがあるのです。

私どもは、どうしても独立国は力に相応するある程度の自衛力を持たなければならぬ、その持つということが外国の侵略をおのずから防ぐことになり、外国のそういう侵略の意図を抑制する力になる、かように考えて、自衛力は持てる、従ってある程度の自衛軍は持たねばならぬということで、高い税金を払ってやっておるわけです。

それを自衛力は持てない、持つべきではないという議論が世の中に非常に横行するようなことになりますと、私は国民の思想上に非常な混迷を来たすと思いますからお尋ねしたわけでございます。しかし大体佐藤先生のお考えもわかったようでございますから、これ以上の追及はやめておきます。なお私はもう一点尋ねたいと思いましたが、だいぶ時間もたったようでございますから、打ち切ることにいたします。